六日目〜釧路・帯広〜 (道東横断編)


◆ 2/16 Mon : 網走→能取岬(流氷)→博物館網走監獄→網走→釧路→帯広(六花亭)→札幌

後編は、博物館網走監獄の駐車場からスタート。

入口のゲートで配車予約したタクシーを待った。
約束の時刻に遅れること10分、ようやく到着したタクシー。
運転手は先程の方とは違う方だった。
列車の発車時刻が迫っている旨を伝え、駅まで飛ばしてもらう。



発車時刻の5分前に網走駅へ。
既に列車は入線していた。

流氷ノロッコ@網走駅 流氷ノロッコ@網走駅 

「流氷ノロッコ1号」知床斜里行き。
一風変わった列車名の由来は、車窓から「流氷」を眺められるように
「ノロノロ」とした速度で走る「トロッコ」列車、というところから来ているようだ。

一般にトロッコ列車というと、オープンエアのイメージが沸くことと思う。
しかし、ここは真冬の北海道─さすがにそれはあり得ない。
一般客車を番屋風に改造することで、トロッコ車両に仕上げていた。

トロッコ内は、向かって海側の座席が外を向いたベンチになっていた。
常に流氷と正対できるように、との工夫が施されているのだ。
車内には石炭式のダルマストーブが設置されていて、番屋風の雰囲気作りに一役買っている。
ストーブ上の焼き網ではスルメが焼かれていた。
そういえば、さっきから車内がイカ臭くて仕方なかった。
「成程」と一人納得して、席に腰を下ろす。

列車が動き出すと、スルメの購入主であろうオバサンが焼けたスルメを手に回ってきた。
お言葉に甘えて、僕もお一つ頂戴してみる。



網走を出て、約20分。
中編でも触れた北浜駅に到着した。

北浜駅からの景色 拡大

全国でも唯一という、ホームから流氷見物のできる駅。
窓の向こうには、目と鼻の先にオホーツク海があった。
そこに見えたのは青い海原と、地平線にうっすらと見える流氷の姿。
博物館網走監獄での「決断」は吉と出たようだった。

流氷を目当てにしていた客から溜息が漏れる。
しかし悪態をついたり、不満を口に出す客はいなかった。
流氷は気まぐれに現れては消えることを、よくご存知のようだった。



列車は流氷の無いオホーツク海沿いを、ゆっくりとした速度で走る。
止別(やむべつ)を過ぎる頃、突如として海面は流氷に覆われ始めた。
退屈そうにしていた客たちが、一斉に窓際へと吸い寄せられていく。
ここぞとばかりに車掌のアナウンスが入る。

止別付近の流氷 拡大

「左手に見えますのが、オホーツク海の流氷でございます」
どっと沸き立つ車内。

番屋と流氷 拡大

列車の終点・知床斜里付近では、流氷が見渡す範囲を埋め尽くしていた。
どこまでも広がる白い氷原は、対岸の知床半島まで歩いていけそうにも見えた。

気まぐれな流氷の見せる劇的な車窓の展開に、あたかも弄ばれるかの様だった。
こうして「流氷ノロッコ号」の一時間の旅は終わった。



晴天の知床斜里で、次なるイベント列車に乗り継ぐ。
「お座敷摩周号」釧路行きは、相撲ムードを売り物にしたお座敷列車である。
その由来は、沿線に第48代横綱・大鵬の出身地があることに因る。

お座敷摩周@知床斜里駅

列車は「サロベツ」と同じ特急型車両に、指定席のお座敷車両が2両連結されていた。
お座敷車両内は飲食店のお座敷そのままに、通路を挟んで「1+2」列の掘りゴタツが並んでいる。
僕の席は運良くも1列側であり、正面の席に相席はなかった。

知床斜里から標茶までは山岳地帯を走るため、車窓の楽しみは乏しい。
道中は窓から差し込む温かい日差しの下、掘りゴタツにゆったりと足を伸ばして休んだ。



13:05、釧路までの中間地点にあたる標茶に到着。
ここで下車して、三本目のイベント列車へと乗り継ぐのだ。

標茶駅のキタキツネ(笑)

「流氷ノロッコ号」、「お座敷摩周号」と続いて、ラストを締めるのは「SL 冬の湿原号」。
初日の新千歳空港駅で運良くチケットを手に入れた、あの人気列車である。

僕も長いこと鉄道旅を続けてきたが、SLにはまだ一度も乗車したことがなかった。
それだけに、チケットを手に入れた時は小躍りするような気持ちだったと、初日の記録にも記している。



さて、標茶でSLが来るのを今か今かと待ちわびていたわけであるが、
皆さんは「標茶」という駅名を正しく読むことができただろうか。

正解は「しべちゃ」である。

標茶駅標

このように、北海道の駅名には難解な読み方をするものが多い。
例を挙げれば、「長万部(おしゃまんべ)」、「音威子府(おといねっぷ)」、「占冠(しむかっぷ)」、
「雄信内(おのっぷない)」、「美馬牛(びばうし)」など。
元はアイヌ語だったものを強制的に漢字に置き換えたことに因るのだろう。
これらの駅名を覚えなくてはならない駅員さんは大変だ。



話を本筋に戻そう。

SLの到着まで、駅の待合室で時間を潰していた。
改札前にはSLに乗り込むと思しき団体客が人だかりを作っている。
その殆どは、年配のご夫婦である。
昔懐かしいSLで、往年の思い出を味わおうということなのだろう。
仮にもし自分があの世代になったならば、思い出を求めて何に乗るだろうか。
そんな空想が一瞬、頭の中を過ぎった。

冬の湿原号@標茶駅 拡大

やがて、お待ちかねのSLがゆっくりと姿を現した。
漆黒の重厚な機関車が、モウモウと灰色の煙を吐き出しながら、大小八つの動輪を回転させている。
その様はまるで、一つの生き物の様でもある。

全身からは、みなぎる「たくましさ」と「力強さ」が。
そして、細部に目を向ければ、そこには部品一つひとつにわたる「緻密さ」が。

古来の人間たちの技術が結晶した「作品」が、まさに目の前にあるのだった。



13:50、豪快な汽笛に続いて「SL 冬の湿原号」が動き出した。
列車はSL(C11 171)を先頭に、緩急車と呼ばれるブレーキ付の貨車を挟んで、
後部に客車5両がつながる編成になっていた。

写真からもお分かりになるように、SLは正面を緩急車側に向けて連結されている。
せっかくのヘッドマークが連結面に向いてしまっているのが残念なところだが、
今回乗った下りの「湿原号」では、これがデフォルトの姿のようだ。

緩急車から見るSL ダルマストーブ

2両目の緩急車からは、走るSLの姿を間近に見ることができた。
車内にはダルマストーブが置かれており、ここでもスルメが焼けるようになっている。
5両目の「カフェカー」では、往年のコスチュームを身に付けた客室乗務員がサービスを行っており、
レトロな雰囲気を味わえるスペースとなっていた。

そのカフェカーを挟む形で、3・4・6・7両目が全席指定の客車となっている。
客車の最大の特徴は、6・7両目といった後方の客車でもSLの音が聞けるように配慮されている点だろう。
毎回の出発時には、スピーカーを通して、先頭のSLから発生する音が車内に流される。
この辺りは、さすがJR北海道といったところか。



「SL 冬の湿原号」は少しずつ加速をつけて、最高60km/hの速さで釧網(せんもう)本線を走る。

最初の停車駅・茅沼(かやぬま)は、タンチョウが観られる駅として有名だ。
全身が白く、翼の先と首の部分が黒い、鶴の様な細身の鳥である。
走行中の車窓からは幾度となく、その姿を観ることができた。

続く停車駅・塘路を過ぎると、車窓には広大な釧路湿原が広がる。
蛇行を繰り返す川と、限りなく広がる白い原野。
キタキツネやエゾシカの姿を探そうと目を凝らしてみるが、そう簡単に見つかるものではない。
沿線には、SLにカメラを向ける人が多数見受けられた。
この寒い中、一日一往復のSLを写真に収めるが為に出向いてくる彼ら。
それだけ動いているSLというのは貴重な存在なのであろう。
改めて、この列車に乗れたことを嬉しく思うのだった。

釧路湿原駅を過ぎ、東釧路が近づく。
手付かずの湿原の向こうに見えてきたのは、廃棄自動車の山だった。
一瞬にして、文明社会の中に引き戻されたような気がした。
改めて人間の身勝手さ、愚かさを実感させられる。

15:12、「SL 冬の湿原号」は終点・釧路に到着。
こうして、初めての汽車旅は幕を閉じた。



釧路駅 拡大

道東を代表する都市・釧路。
僕の中で釧路といえば、真っ先に思いついたのが桃鉄の「カニぎょせんだん」だ。
実際、釧路は大きな漁獲高を誇る港町であり、駅近くには和商市場という魚市場がある。

釧路での滞在時間は一時間と限られていた。
その中で、以下の三つのイベントをこなすことになっていた。

・和商市場の名物「勝手丼」を食べる
・ホッケを買って、知り合いの美容師さんに送る
・道内で人気を集めているという、釧路発のお菓子「ねこのたまご」を試食する

前の二点は、駅近くにあるという和商市場で事が済む。
「ねこのたまご(ねこたま)」も駅前の直販店で売られているという。
一時間もあれば十分、と踏んでいた。



が、しかし、甘かった。
事前リサーチを省いたことが裏目に出た。
和商市場も「ねこたま」の直販店も見つからないのだ。
右も左も分からない...迫り来るタイム・リミットに焦りを感じつつも、
足元が全面のアイスバーンでは走るわけにもいかなかった。

早足で歩く僕の横を、地元のちびっ子が走り抜けていく。
まるで足に吸盤でも付いているかの様だ。
僕が真似をしたら、間違いなく転倒してしまうことだろう。

通りかかったパトカーを呼び止めて、道を尋ねる。
和商市場へたどり着いた時には、既に残り時間は30分を切っていた。



和商市場

「勝手丼」を作っている時間はなかった。

ちなみに勝手丼とはオリジナルの海鮮丼のことで、まず丼一杯のご飯(酢飯)を買って、
その上にのせる具材を市場内の水産店で買い求めていくというものである。
各水産店では、勝手丼用の刺身やいくら等が一切れ単位で売られているのだ。

残り時間の中で「作って、食べる」ことは不可能に近かった。
勝手丼は諦めて、かねてからの約束だったホッケを送る手配を済ませた。



列車の発車10分前に釧路駅へ。
直販店の見つけられなかった「ねこたま」をキヨスクで購入。
合わせて勝手丼の代わりにと、釧路駅の名物駅弁「釧路漁礁」を買った。

Sおおぞら@釧路駅 拡大

16:18、「スーパーおおぞら10号」札幌行き。
出発前の記念撮影では、運転士さんがヘッドライトを全て点灯するサービスをしてくれた。
本旅行記で何度となく触れているが、温かい心遣いには頭が下がるばかりである。

この旅二度目となるグリーン車で、この日最後の滞在地・帯広を目指す。
90分の乗車時間内で「釧路漁礁」と「ねこたま」を完食。

釧路漁礁 ねこのたまご

「ねこたま」は生クリームの入った冷菓子で、雑な例えをすれば「雪見だいふく」に似ている。
一つひとつには、それぞれ種類の異なる生クリームが入っている。
生クリームは非常に手の込んだもので、濃厚なのにしつこさが感じられずおいしい。
一端食べ始めたら止まらないおいしさで、あっという間に一箱を空けてしまった。
パッケージもカワイらしく、某友人へのお土産に改めて買うことにした。



帯広駅 拡大

17:45、帯広に到着。
帯広駅は道内では珍しい高架駅だった。
現代的な駅ビル一体型の駅は、本州の主要駅さながらである。

帯広では十分な滞在時間があった。
二時間半の間にイベントはひとつ─『六花亭』の本店を訪れることだけだった。



北海道を代表する銘菓店として有名な『六花亭』。
その味は確かなもので、年来、我が家でも愛用させてもらっている。
この店はまた、素晴らしい社員教育が施されていることでも評判が高い。
丁寧でテキパキとしたレスポンスは、母の気に入るところでもある。

六花亭本店 拡大

駅から伸びるメインストリートを歩くこと10分。
現代的な中に風格の漂う、シックな建物が本店だった。
ショーケースには見慣れた銘菓の数々がズラリと並んで、いかにも本陣といった感である。

接客は評判通りの素晴らしいものだった。
あれこれと品物を勧めてくるわけでもなく、親身になって受け答えをしてくれる。
レスポンスの一つひとつは正確で、ハキハキと端的である。
ダラダラと答えてしまう僕などは、見習いたくて仕方がなかった程だ。

さて、本店では家族に頼まれていた品物の他に、祖父母や親族向けに二万円程のお買い物。
親からもらった「お土産費」は、ほぼ全額をここで消費させてもらった。



買い物を済ませると、しばし帯広の町をブラブラして駅へ。
列車まではまだ一時間ほどの余裕があった。

「みどりの窓口」で、未定になっていた翌日の予定を組む。
明日はいよいよ最終日である。
思い残すことの無いように、見たいものは何か。食べたいものは何か。
全ての欲求を満たすルートを時刻表で探していった。

この旅最後の発券を済ませると、「スーパーおおぞら12号」の改札がアナウンスされた。
20:14、同列車のグリーン車に乗車。



22:32、札幌に帰着。
総移動距離530kmの、長い長い一日が終わった。


- 六日目・終 -
 


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