愛護的訓練が必要です
さて、前の項で早期訓練の必要性、重要性についてお話ししました。お父さ
ん、お母さんのやさしい手と心による発達促進の取り込みが何より大事だとの考
えをのべました。ところで、次の関心は、がんがん泣かせてでもきつい訓練をさ
せてていいのか、という事になります。
機能訓練に第一に求められる点は、訓練は徹底して愛護的にこどもを泣かさ
ずに楽しくおこなわれるものであるという点です。私が最初に訓練というものを
拝見したのは、ある九州の肢体不自由児施設でした。ドーマン法という訓練法と
いう事でしたが、三人あるいは五人一組になったお母さん方がお子さんをあおむ
けにし、頭と手と足をもって1、2、3、4と交互に顔を右にむかせたり、左に
むかせたりし、そのたびに両手と両足を曲げたり、のばしたり、内にねじったり
外にねじったりして、数分間、体を動かすんです。本人の意志は全く無関係でこ
どもはぎゃあぎゃあ泣いておりました。すごく効果がありそうだなと感心して見
ておりましたが、お母さん方も何かしてやったという満足感をもっておられるよ
うでした。しかし、この治療は効果があったのかどうかは別にして、こどもにと
っては地獄のドーマン法だったろうなと今になって思い返します。
また、そのほかの訓練法で首をむりやりねじ曲げるものがあり、首の骨がず
れて頚から下が完全麻痺になり、最終的に脊椎手術などの甲斐もなくなっていっ
たこどもさんもいます。このように早期訓練が導入された時期は療法士と機能の
改善をのぞむお母さんがあまりに一気になおそうと一生懸命になりすぎ、こども
が泣く事によって動きが出るのではないかと期待し、わんわんなかせながらの訓
練が訓練室を中心にくりひろげられ、「訓練室残酷物語」を形づくっていたと思
われます。
しかし、科学的に考えますと、泣く事によっておこる動きはつっぱった動き
であり、どんなにいい方向に動かそうとしても、やわらかいゆっくりした体を持
ち上げるようないい動きにはならないんです。よく考えると体を動き上げる大事
な動きはゆったりした快適な環境のなかで育てられるんですね。また私達はマヒ
のないこどもには、こんな泣かせるようなトレーニングをするのでなく、少し手
助けしながら、おだやかに、ほめながら自主的な動きがでるよう、育てるんです
ね。
こどもが大きくなり、訓練をやめてしまったお母さんにその理由を伺います
と「こどもが大きくなり、もう抑えつける事が出来なくなり、訓練を拒絶するよ
うになった」といわれます。これでは楽しい訓練とはほど遠い所になってしまい
ます。やはり、本人ぬきでなく、本人の意志を大事にした訓練で訓練の実をあげ
たいものです。この愛護的訓練の方向性については私は「脳性麻痺と機能訓練」
という本の中にくわしくのべており、多くの方々に読んでいただいています。
実際には訓練を担当される方々それぞれに実施の段階では大きな苦労もおありか
と思いますが、現在、療育界とそれをとりまく皆さんが、より障害児・者を大事
にしょうという気運にあります。お母さん方も賢しなり、よく勉強を始めてきて
います、訓練もより愛護的に適切な時期と場所で、より豊かに行われる事を期待
するものです。
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