肢体不自由児施設とは

  これまで脳性麻痺という難治性の病気がいろいろな形で明らかによく なるという話しをしてきましたが、これから少し、その治療の拠点となる 肢体不自由児施設、その他の病院について話しをすすめてみたいと思いま す。   日本の肢体不自由児施設は昭和20年代後半から設立されてきています。 当時は、まだ戦争後まもなくで、衛生、保健の環境が充分に整わず、いろ りに手や顏を突っ込んでおこるやけど、結核などの菌によっておこる慢性 骨髄炎・脊椎変形、先天性股関節脱臼など手足や体に障害をもった方々、 お子さんが沢山いました。またウイルス感染によっておこるポリオという 麻痺にかかった人達も多く、この人達をどのように治療するかが、大きな 課題でした。   これらの治療に時間がかかり、麻痺があるために、そのお世話に特別 な人手がかかります。大学病院や赤十字病院、県立病院ではその他の病気 治療に忙しく、ゆっくりかまっておれない、という事情もありました。し かも、このような専門病院を作ってほしいというお母様、お父様方の強い 要望の中で、厚生省は各県に最低一施設は肢体不自由児施設を持ってこれ にあたるべきであると考え、児童福祉法の中で各都道府県に肢体不自由児 施設を設置するよう、求めています。   児童福祉法によりますと、 第35条(児童福祉施設の設置)(2)都道府県は命令の定める所により 児童施設を設置しなければならない。更に 第43条(肢体不自由児施設)肢体不自由児施設は、上肢、下肢または体 幹の機能の障害児を治療するとともに、自活に必要な知識技能を与えるこ とを目的とする施設である、となっております。   一部の肢体不自由児施設の意義について積極的でない方々の中には、 この条文および関連の条文は、必ずしも国が都道府県に肢体不自由児施設 の設置を義務つけたものでないと解釈するむきもありますし、また法令的 にはその通りかも知れませんが、その本質は社会福祉の立場から見れば、 国がこの事業の重要性を理解し、各都道府県に、その設置を義務づけてい るのと同じと解釈すべき内容でしょう。ともあれ、昭和20年代後半から 昭和46年前半にかけて大半の肢体不自由施設は全国各都道府県にくまな く配置され、肢体不自由児、肢体障害児の機能改善医療が発達していった のです。   この肢体不自由児施設はこのような背景の中で世界に比例のない立派 な障害児の機能向上のための専門施設として活躍してきています。 平成10年現在、その数は69施設で入園治療児の総数が6226名にも達し ています。   ちなみに日本の次に整備されているアメリカでは19のShriner病院が、 肢体不自由児の専門病院としてありますが、イギリスとかフランスとかそ の他の先進国でも2つか3つ位の専門病院しかもっていないとされていま す。日本の障害児機能改善医療が数の上ではいかに整備されているかお分 かりかと思います。   ところが1965年前後を境にポリオワクチン、抗結核剤、抗生物質の進 歩、住環境の変化、整形外科治療手技の進歩があいまって、ポリオ、結核 性脊椎炎、関節炎化膿性骨髄炎、手足顔の火傷、そして股関節脱臼が激減 しました。   かわりにそれまで放置されていた脳性麻痺という運動障害が施設の主 体的テーマとしてあらわれてきます。ところが、この障害は脳の障害から おこってきていますので、なかなか手足を直接治療してもなおりにくく、 私を含めて多くの整形外科医がOT, PT の仲間達と頑張ってもなおりにく かったのです。   このため本人や御両親の期待に答えることができず、入院希望者は減 少し、一時は肢体不自由児施設はもうその役割が終わったかのような言い 方がなされ、あちこちの施設が閉鎖されていったのです。悲しい時代でし た。多くの障害児は当時導入されたボバース法、ドーマン法、ボイタ法な ど早期治療へ 期待をよせ、病院でなく家で治すといった考えにかたむいた時期もありま した。また脳外科的治療に期待をよせた時代でもありました。   しかしながら、10年〜20年と経つうちに家で訓練でなおすといった安 上がりな治療では脳性麻痺という本当の病気はなおらないということが経 験的にもはっきりしてきました。またこれまでの脳外科手術では後でのべ ますように限界があり、マイナス面もありということもはっきりしてきた 時期でもありました。この中で、整形外科医の間でも必死の努力がなされ、 治療への模索がなされ、まことに幸運にも、より確実な効果を約束できる 治療法が、生まれることになったのです。   そしてこの成果は作業療法士、理学療法士、言語療法士、学校の先生 方、児童指導員、保母、看護婦といった一緒に機能の改善に取り組む仲間 のいる肢体不自由児施設で始めて獲得されるものであることもはっきりし てきたのです。今、確実な効果が約束できるようになった現在、肢体不自 由児施設は脳性麻痺など重篤な機能障害をもったこども達や大人達の機能 改善のオアシスとして脈々と活動を再開したといっていいでしょう。障害 児、者機能改善医療のルネッサンスといっていい現在、肢体不自由時施設 はその活動の核として、施設の中核に位置していると思いますし、これか らも位置することでしょう。   しかし、反面障害児、者の皆様から要求されるものより高度なものに なってきます。少しでも確実な効果を得るためには各専門職は必要な勉強 をしなければならないでしょう。効果がなければ患者さん達から頼りにさ れなくなるだけですから、、、。特に整形外科医は勉強しなければならな いと思います。今までの大ざっぱな新しいものだけを追うといった治療の 考え方を捨て、先達が育てたより厳格な整形外科、腱の延長もミリ単位の 正確さで行えるち密さなどが求められましょう。   よく、私は整形外科医にいわれます。 「先生のすすめる手術は私が行うと成績がよくない。先生のは科学とはい えないのではないか」   私の反論は次のようなものです。 「先生は正しく私のやっている様な手術をしていますか。わたしの整形外 科は神中整形外科の基礎に裏打ちされ、九州大学の整形外科で研修し、勉 強した整形外科の技術に支えられています。私の本には私の治療のアウト ライン、基本概念しか書いておりません。したがって、本だけでは本当の 事はわからない、と思います。一つの手術をするにしても沢山の先輩から 教わった数々の手技、考え方、患者さんに対する思いといったものがつま っていると思うんです。ですから、評論をする前に私の所にきて患者さん を見て、その手術の中身を見てしっかり勉強して、自分で取り組んでみて 下さい。そしたら必ずよくなりますと思います。患者さんに単にやさしい 言葉をかけるだけでは本当の優しさと言えるかどうか。技術を通じて、患 者さんの苦痛が軽減出来るやさしさを持てるよう、腕をみがきましょう」   熊本総合医療センターの池田Drは私の整形外科を勉強するのに2年間、 私の園に就職し、わたしの整形外科技術と脳性麻痺整形外科の本質を勉強 しました。今ではとてもきれいに患者さんを治療しています。私も安心し て池田先生には紹介できるんです。   この他にこのような考え方を理解し、それを実施されている先生方が 全国各地におられます。これらの仲間とともにさらに必死に勉強し、日本 が育て、いろいろな方々が支えてきて下さった肢体不自由児施設をさらに 充実、障害をもった方々のオアシスとしていくことができたらなあ、と思 っています。
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